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BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

『あるモテない男の話』 第2話 1~10


『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.1


これは、ある”モテない男”のショートストーリー。
その第2幕である




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モテる男   二階堂 一樹  18歳(大学1回生)
 
モテない男  三街道 文雄  18歳(大学1回生)



====================






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 静香・シンデイー・千草にたて続けにフラれてしまった三街道。
しかし、彼はその事実を認めたくなかった。



三街道はその場で泣いた。あの小さな校門からのびる階段の上で。

心は乾き、叫び声を上げた。

空腹感にも似た、締め付けられるこの胸の痛み。

……………そして孤独。

そう、この孤独はいつ癒えるのか分からない。

それが怖い。




「がんばっていれば、4年後にはキチンと卒業できますからね。」




それなら誰でもがんばれる。約束の期限があるからだ。
しかし、恋と言う物には期限が無い。いつ実るのか分からないのだ。
一生実らない恋もある事だろう。

……そう、どんなにがんばろうと実らない恋もある。








 三街道はしばらくそこの階段に腰掛けていた。
この階段から帰る学生も何人かいた。しかし皆、三街道の横を素通りする。
顔を伏せて不審者のようにうずくまる三街道だったが、誰も気にしない。
このような格好でたむろっている学生は多いからだ。
ここはやはり大学。自由な雰囲気はいいが、自由すぎてこういう部分も多い。



しばらくそこでじっとしていた三街道だが、
突然ある事に気が付いた。

三街道「待てよ……。」

彼は重要な情報をつかんでいた事を認識した。









「(二階堂には”彼女”がいる。)」









三街道「(そうだ!!
この事実をもってすれば、少なくともあの3名の女の子の心境をどん底に突き落とす事が出来る!
静香、シンデイー、千草!
彼女達はこの事実を知れば、今の俺と同様に落ち込むはずだ!」

またよからぬ事を考えるのか、三街道よ………。

…三街道は、「二階堂がもし”いなくなれば”どうなるだろうか?」と願った事を思い出した。

三街道「(そうさ!今や二階堂はいない!
ヤツはこの”恋の争奪戦”の渦中から”いなくなった”んだ!!」



ニヤリ!



三街道は悪魔のように微笑んだ。

三街道「(そうだよ!これはチャンスだ!
彼女達は落ち込む!
そこには俺が付け入る隙が生まれる!
そうだ!
これは落ち込んだ”彼女達”をなぐさめるチャンスだ!

二階堂に彼女がいる事実を知らせれば、彼女達は”失恋”する。
そこに俺が行って、やさしい言葉をかける。

すると……、)」


三街道は立ち上がって両手の拳を握り締めた。
ちょうどそこには木々の隙間から神々しい光のカーテンが射し込んで来ていた。

三街道「(くくくく……、やる気が出てきた!)」


めげない男、三街道!
いや!本当の所、彼はいつも心のダメージなど少ないのだ。
なぜなら、彼の全ての”恋愛に関する事実”は、彼が勝手に感じている妄想に過ぎないから。
あの3人の女の子は、彼をまだ恋愛対象として見ていなかった。







『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.2


三街道「まずは誰から行くかな……。まっ、ここは静香がいいか?」

こうして三街道は静香に電話をかける事にした。さっきまでのように、彼女達の前でわざわざ「探す」パフォーマンスを演じなくてもよい。彼には決め手となる重要なコマが手に入ったからだ。

彼は自分の携帯を取り出して静香に電話をかけた。

プルルルルルルルルル……。

しかし……、

プルルルルルルルルル……。

プルルルルルルルルル……。

携帯はかからなかった。
そこでもう一度かけ直すと…… 。

「ただいま電話に出る事はできません」というアナウンスが流れた。





三街道は今度はシンディーに電話をかける。
しかし……同じように、

「ただいま電話に出る事はできません」というアナウンスが流れた。





三街道「よし次だ!!次は千草だ!」

千草の携帯にかけてみると……。

プルルルルルルルルル……。

プルルルルルルルルル……。

プルルルルルルルルル……。

ガチャ!

アナウンス「留守番電話サービスにお繋ぎします」

…………皆、どうも、わざと電話に出ないっぽい。

三街道「くそっ!」

しかたなく、またキャンパス内を自分の足で探して歩く事にする。
彼は普段は怠け者だったのだが、こういう女の子絡みの事となると自然と足が動く。だが、いつも中途半端だったが……。
それでも今は張り切って静香らを探し始めた。







 キャンパス内には正門に向かう学生達が大勢いた。
皆一様におっとりした表情をしていた。もうこれからはしばらく時間に縛られる事もない。明日からは自由の身。

三街道「(急がないと!)」

三街道は彼女達に帰られてしまう事を恐れた。

三街道「(待てよ、二階堂がこのキャンパス内でいつも立ち寄りそうな場所を探せばいいんじゃないか?そうすれば………、そこに彼女達が二階堂を探しに行っている可能性は高い!)」

そう考えた。
しかし、あの二階堂は自分と趣味やセンスがまったく違う。彼の立ち寄りそうな場所と言ってもすぐには思い浮ばなかった。

三街道「(彼は普段どこに行くのだろう?
音楽関係かな?そうだ………、確か最近、男性ボーカルの誰かの曲が好きだからCDを買うとか言ってたな。)」

そこで学内のCDショップに行った。と言っても本屋の横に増設されたような小さなショップだったが……。
それでもここは比較的値段が安いので、ここで新曲のCDの予約をする学生も多く、見た目にはいつも繁盛していた。
そこへ行って見たが、静香はおろか、シンデイー・千草らの姿もなかった。

それで今度は静香と二階堂がお茶を飲んでいたあの喫茶室に行く事にした。







『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.3


 そして………、校舎の一画にある喫茶室の窓が見える所まで歩いて来た。
喫茶室の中には何人かの学生達が最後のお茶を満喫していた。
明日からここは営業休止。夏休み中は、学校に来るのはクラブやサークルのメンバーだけになるが、そこから何人がお客として喫茶室を利用するかを考えると当然の処置だった。




三街道は静香・シンデイー・千草らの姿を探した。









■■■ 静香 ■■■

----------------------------------------------------------------------


すると……いた!



静香は喫茶室のガラスに張り付いて、外から中を覗きこんでいた。
その表情は沈んでいるように見えた。

三街道「(そういえば彼女、今日は明らかにデートに行くような格好をしてる。)」

 いつもの登校スタイルはジーパンにTシャツという飾り気の無いものが多かったが、今日はきちんとした格好をしていた。それに下はスカートだ。学校に来る為だけにスカートをはいてくる女子はあまりいない。彼女もそうだった。

三街道「(それが、今日はスカート。それに丈が短いような気が…………。)」

すらりとした白い足がそこから伸びていた。

三街道「(まさか……、
さっきは二階堂のヤツを探すとか言っていたが……、
今日はもともと二階堂とどかこに行くつもりだったのか?)」


三街道はちょっとした事を思いついた。
ここから静香に電話をかけて見るのだ。彼女はまだ三街道が近くにいる事を知らない。
彼女がいったいどんな反応をするのか…。

三街道「(俺への気持ちがそれで確かめられる)」

ピッピッピッ!

プルルルルルルルルル……。

すぐに彼女の携帯が鳴った。
すると……、彼女は素早く手さげ鞄の中から携帯を取り出した。

三街道「(おお!あんなにすばやく?!)」

しかし、その着信記録から、誰から電話がかかったものか分かると、ガックリしたようにうなだれた。
そして動作もスローになり、ゆっくりと手さげ鞄の奥の奥に、まだ鳴り続けている携帯電話をしまった。

三街道「(えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!
なんだよーーーーー?!!いったいーーーーーーーーー!!!
俺がかけていると分かると電話に出ないのかよーーーーーーー!!!)」

三街道は逆上した。

そして設定をヒツウチにしてもう一度静香に電話をかけてみた。

プルルルルルルルルル……。

すると……、彼女は素早く手さげ鞄の中から携帯を取り出した。

しかし、着信記録を見て、また固まってしまった。

そして……、そのまましばらく考えた後……、

静香 「(タイミングよすぎるわ。これはやっぱり三街道君がかけて来てるのよね。二階堂君ならヒツウチを使わないし……)」

また、ゆっくりと手さげ鞄の奥に、まだ鳴り続けている携帯電話をしまった。


三街道「(くそーーーーーーーー!!!
なんだよーーーーー?!!いったいーーーーーーーーー!!!
俺がかけている可能性があると電話に出ないのかよーーーーーーー!!!)」

そこで、今度は公衆電話からかけることにした。幸いこの校舎のすぐ近くに公衆電話があるのだ。
三街道は残り度数の少ないカードを放り込み、静香に電話をかけた。

ピッピッピッ

プルルルルルルルルル……。
プルルルルルルルルル……。
プルルルルルルルルル……。

「留守番電話サービスにお繋ぎします」

三街道「(なにぃーーーーーーーー!!!
さっきは留守番電話サービスに繋がらなかったよ!アイツ見かけによらずヒドい事するなあーーーー!!!!」

怒る三街道だった。







『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.4


三街道「(いいだろう……、”お遊び”はここまでだ!)」

なにやら決めゼリフのような物を吐き、三街道は静香の立っている所に小走りで向かった。静香はそこを立ち去ろうとしていた。そこで三街道は大きな声で叫んで、静香を呼び止めようとした。

三街道「静香あーーーーーーーーーーーーーーー!!」

静香は三街道の顔を見るなり「(げっ!)」と言う感じの顔をした。

三街道「偶然だなあーーーーーーー!!また会うなんて!」

静香は慌てた。

静香 「ちょっと!呼び捨てで、しかも大きな声で呼ばないでよ!周りに聞こえちゃうじゃない!」

静香は決して三街道の事を歓迎していない。

三街道「俺は別にかまわないよ。聞こえても!」

静香 「あなたはかまわなくても、私には迷惑なのよ!!!」

三街道「いいじゃないか!君にとても関心の深いある話をわざわざ持ってきてやったんだぜ!」

静香 「今はいいわ。また今度。じゃあね」

静香は三街道の話に興味無さそうだった。その場を立ち去ろうとした。

三街道「いいのかな?”二階堂に関する事”なんだけれどもなーーーーーー」

静香 「(ギクッ!)」

静香は素早く振り返った。そして精一杯の作り笑いをした。それは営業スマイルに近い。

静香 「ああ、そうなのv!そうだったの!!それは知らなかったわ!
じゃあ、はやく教えてよ!」

三街道「なんだよその態度!二階堂と聞くと急にコロッと変わりやがって。
さっき俺の電話無視したくせに!」

静香 「(ギクッ!)」

三街道は腕を組んでプイッとそっぽを向いた。

静香 「はいはい。じゃ、電話の事は”ゴメンナサイ”!これでいい?
……で、二階堂君の事、早く教えて!」

三街道「”ただ”で……?」

静香 「じゃーーーーーあ、もういいわ!」

またその場を立ち去ろうとする。

三街道「彼の居場所、知ってるんだけどなあーーーー」

それを聞いて立ち止まる静香。振り返り、

静香 「どこ?」

三街道「”ただ”で教えるの……?」

静香は会話に嫌気がさし、その場で直接二階堂へ電話をかけようとした。

ピッ!ピッ!ピッ!

三街道「やめた方がいいよ。今、電話するのはマズいよ~~~~~~。
ヤツは今ごろ、女と会ってるかもよ~~~~」

静香はかけようとした電話を慌てて切った。

静香 「なんですってぇーーーー?!それ、どういう意味よ!」

三街道は上体を背伸びをするようにやや向こう側にひねり、あくびをした。
静香は三街道の方に近寄り、

静香 「いいから教えなさい!」

と、急に会話が熱心になった。さっきの”そっけ無さ”とはえらい違いである。

三街道「いやーーーーー!詳しく教えてあげてもいいんだけど……、






”ただ”で?」






静香 「くーーーーーーーーーーーー!!じゃあ、いくら払えばいいの?」

三街道「”デート”」

静香 「デートですってえ?!三街道君!ここではっきり言っときますけど!あたし達、


”なんでもない”のよ!


そこの所、忘れないでね!!」






『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.5



三街道「じゃあ教えられないよなーーーーーーーーー。そんな態度だと。」

静香 「いいわ。
じゃあ、もういい!
やっぱり、二階堂君に直接電話して聞くから!」

三街道「止めた方がいいよ~~~~~。ヤツに嫌われたくないんだろ~~~~~」

静香は携帯電話を握り締めたまま考えた。
実はいつもは………、二階堂に電話を出来ないでいる。
彼に電話をかけたくとも、携帯を握り締めたまま、結局時間だけが過ぎていくのだ。
静香はいつもそれを後悔していた。

三街道のこんな嫌気がさす会話でもなければ…………、思い切って彼に電話をかける事など出来ない。

三街道「俺のアドバイスを聞けよ~~~~~~~。」

静香はまた三街道の言葉に我慢ならなくなり、怒りから携帯のプッシュボタンを押した。

ピッ!ピッ!ピッ!

三街道「止めたほうがいいなあーーーーーー。
彼、これからある女の子と”他人に邪魔されたくない時間”を過ごすんだから。」

ボタンを押す静香の指が止まった。

静香 「どういう意味よ?それは?!」

三街道「さあね。教えるには…………………、”デート”!」

静香 「だから!!!!あたし達は”なんでもない”って言ってるでしょ!!
”デート”は無理!無理よ!」

そうは言ってみたものの……、その後、静香はやっぱり二階堂の事が気になったので教えてもらおうと思った。ここで、こんな風にしていても時間の無駄である。

静香 「じゃ、いいわ。いっしょに食事しましょう………………、”学食”で!」

三街道「”学食”?
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
外で食おうよ~~~~~~~~~!」

静香 「駄目よ!校内以外は駄目って言ったでしょ!」

三街道「じゃあいいよ!教えない!」

静香 「くーーーーーーーーーーーー!!!!」

こうして、静香は”しかたなく”三街道と駅前のファミレスに入って食事する事にした。








 小さな駅の小さな駅前商店街。ここの外れの国道に面した一画に建つファミリーレストランに入った。さすがにいろんなファミリーが来ていた。店内は結構うるさい。子供連れで来ている家族も多いからだ。店内には子供の叫び声が飛び交い、走り回る姿が見えた。

三街道「デートする場所にしては………、ちょっとムードがないね」

静香 「”デート”じゃないのよ。ただの”食事”よ!!!」

 2人はウエイトレスにテーブルまで案内された。
三街道と静香はそのテーブルに座って、さっそく注文を済ませた。
その後、三街道はテーブルに肩肘を着き、会話を楽しもうという視線を静香に向けた。そしてニヤつきながらこう言った。

「最近調子どう?」

静香 「あのねえ~~~~~~~!三街道君!
私は”二階堂君”の事が聞きたくて、ここに入ったのよ!先にその話をしてくれない?!」

三街道「いいじゃないかーーーー、その話は。もう焦る必要もないと思うよ」

静香はテーブルをドンと叩いた!

静香 「それって、どういう意味よ?!!!!」

そこへちょうど注文していた料理が運ばれてきた。
慌てて気を落ち着かせる静香。
静香はスパゲッティのみ。三街道は豪華な焼肉定食。ドリンクサービス付き。1480円なり。

三街道「じゃ、遠慮なく」

まるでおごってもらうかのような口調の三街道。
さらに、店員が向こうへ行くか行かないかの内に食べ始めた。

パクパクパク!

静香は三街道を”キッ!”とにらむ。

静香 「ちょっと!約束が違うわよ!早く二階堂君の事を話してよ!」

三街道「まあまあ、あせるなよ。楽しもうよ。」

本当に楽しんでいるといったようなトロンとした表情を見せる三街道。
その態度を見て静香は怒った!

静香 「いったいどういうこと?!
話してくれるって言ったじゃない?!はやく話しなさいよ!
言っときますけど……、私、貴方なんかに興味全然ないんだから!」

しかし、その言葉を聞いても三街道は余裕の表情だ。
彼は箸でうまそうな焼肉を一切れつまみ上げながら、

三街道「喋ってあげてもいいよ。けどなーーーーーー。

これまでは、君が悲しむと思って、すぐに喋らなかったんだよーー。
ほら、こういう事はさ、ストレートに喋るべきじゃないだろう?
君は”女の子”だからさ。俺としては柔らかくしてから話してあげたい。その言い方を考えていたんだ。いままで。」

と言った。
しかし、静香は”ただ二階堂の情報をもらえばそれでいい”という姿勢に変わりは無かった。そこで、また

ドン!

と、テーブルを叩いた!

静香 「いいから!喋って!」






『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.6



三街道「わかった。じゃ、言うよ。俺は何も君をはぐらかそうとしてたんじゃない。

じゃあ言うけどさーーーー、聞かれたから。

二階堂のヤツは今ごろデートさ。”彼女”と。」

静香はハッとした。

「(”彼女”?)」

彼女がいたとは知らなかった。静香は二階堂に関する情報はこれまでいろんなところから集めていた。そのどこからも”彼女がいる”なんて事は聞かれなかった。

静香 「(これまでの私の苦労は何だったの?)」

静香が三街道とお茶を飲んだりしたのは、”二階堂の情報を得る為”だった。それが無ければ、こんな会話のセンスもない三街道とお茶をする事はなかった。

静香 「(それにしても、三街道君の言っている事はホントなの?)」

三街道はいい加減な男である。普段は何かに付けてミスも多い。
静香は下目使いに三街道を見た。その目は明らかに”彼女がいる”と言った三街道の言葉を疑っていた。
そしてこう質問した。

静香 「”誰”と?



……その”彼女”って誰?」

三街道「まーーーーーーーーーーーー、知ってるんだけどね。教えてあげてもいいよ。
でも……





”ただ”で?」





静香はまた怒った。

静香 「ええ、知ってるわ!!聞かなくても!!!
”シンディー”でしょ?!」

意外にも静香は”シンディー”の事を知っていたようである。
シンディーは確かに二階堂と2人きりで校内の喫茶室でお茶を飲んでいる所を目撃されている。
ちなみに”シンディー”と言えば、校内ではあのシンディーの事を指す。彼女は有名な存在だ。まあ、シンディーを嫌いになる男性はいないだろうし、二階堂のイケメンなフェイスとその男っぽい性格を持ってすれば、お似合いのカップルとなるだろう。
でも………、真実は違った。

三街道「あと”デート1回”してくれたら教えるよ」

静香 「”シンディー”ね?」

静香は念を押して聞いた。

三街道「いいや」

静香 「じゃーーーーーーーーーー、”千草”ね?」

三街道「(ブッ!)」

静香は”千草”の事も知っているようである。手ごわい!
千草もまた、二階堂と2人きりで校内の喫茶室でお茶を飲んでいる所を目撃されている。
確かに千草は二階堂と同じ高校、そして同じクラスメートだった。可能性としてはシンディーより高い。
しかし………、真実は違った。

三街道「”デート1回”だよ」

静香 「私は二階堂君の事が好きなの!貴方とは”デート”できないわ!」

静香は二階堂が好きだとはっきり言った。
ショックを受ける三街道。
でも……………、その恋が実らないことを、彼は知っていた。
ここでめげない三街道。彼は表面にはショックを受けた事を出さなかった。そしてこう言った。

三街道「でもさ、二階堂には、
付き合ってる”彼女”がいるんだぜ」

三街道の落ち着いた口調。
静香はやっと三街道の言葉を信じ始める。

静香 「……………………。」

三街道「しかたない。言うよ。君のために。
ヤツは前々から”加藤れみ”っていう娘と付き合っていたんだ」

急に静かになる静香。
どうも今の三街道の言葉は真実の響を持っていたようだ。

静香は顔を手で半分隠した。そして、ファミレスの窓から見える道路と商店街を眺めた。しばらくすると頬をつたって涙がこぼれた。


静香 「うそ……」


それは聞き取れないぐらいの小さな声だった。






『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.7


静香 「じゃ、なんで私と2人きりで、喫茶室に入ったの……?!!」

静香はつぶやいた。さっきまで強気の女の子だった静香はもういない。そこには失恋して傷ついた1人の少女がいるだけである。

それを見逃さない三街道!
ここで彼の得意技”変わり身の術”が登場する!
彼は以後、無理をして2枚目を演じる。

三街道「軽い……気持ちだったと思うよ、アイツのやった事は。
喫茶室に入るぐらいなんでもない。君と僕が一緒に入ったのも結局そうだったろ?
まあ、俺はそんな軽い気持ちで君と入ったんじゃないけど」

静香 「貴方とのは関係ないけど……、
私にとって二階堂君と一緒にお茶を飲むのはすごく重要な事なの!!!」

静香は声を荒げた。
それが耳に入った他のファミレスのお客さんが何人か振り返った。

静香 「いつからなの?いつから二階堂君はその”女”と付き合っているの……?」

三街道「……さあ?……さあね。でも、もういいじゃないか、そんな事。あんなヤツ忘れろよ!」

静香 「忘れられないわよ!!何で忘れられるのよ?!」

静香は泣き始めた。
お客さんの何人かはまだこっちを向いたままだった。それでもかまわずに静香は泣き続けた。

三街道「彼は”彼女”がいたのに君とお茶を飲んだ。君と2人きりで。
加藤れみもここの1回生。彼女に見られる事を考えなかったのかなあ?二階堂のヤツ。
そうだとしたら……、けっこうヒドいヤツだなあ」

静香はハッとして顔を上げる。

三街道「ほっておけよあんなヤツ!君もいいように気持ちを持てあそばれたんだ!」

静香はこれまでの事をいろいろ考え始めた。

三街道「気をしっかり持てよ。俺だったらいつでも相談にのるぜ!俺はそんな二股かけるような事はしないから」

静香 「ふっ、”二股”?!!二階堂君が?!」

三街道「でも事実だろ?!君とれみさんと…………」

静香 「うっ」

三街道「電話してこいよ。さびしくなったら。俺ならいつでもあいてるからさ。
じゃ、そろそろここを出ようか?!」

静香 「うん」

そして三街道は伝票を取る。

静香 「あっ、三街道君!私が払うから」

三街道「いいって。ここは俺が払う。でも次のデートの時は忘れるなよ!おごってもらうから」

静香 「あっ」

こうして三街道と静香は店を出た。






『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.8


 それから三街道は静香を駅まで送って行った。静香は家に帰る事にしたのだ。彼女は二階堂の事を聞いて、まだ少しフラフラと地に足が着かないような感じだった。しかし彼女の自宅は2つ先の駅なのでここから近い。だから彼女1人で帰ってもまあ心配はないと三街道は思った。
それで彼女を自宅まで送るのは控えた。相手が迷惑がるといけないので。
それに……、送っていかなくとも、静香には今度デートしてもらえるような雰囲気があった(と三街道は思っていた)。


しばらくすると電車がやって来て、彼女は乗った。

三街道「じゃ」

三街道はかっこつけて、彼女をプラットフォームから見送った。









■■■ シンディー ■■■

----------------------------------------------------------------------

 時計を見ると、もう午後1時頃だった。時間が経つのは早い。
三街道はこれからどうしようかと考えた。家に帰るのもいいが、まだ陽は高い。シンディーと千草があれからどうしているかも気になった。

三街道「(大学にいったん戻ろうか?それとも彼女達に電話してみようか?)」

………などと考えた。
どうするのかすぐには結論は出なかったので、とりあえず駅の階段を登り始めた。どうせこのホームから発車する電車では家に帰れない。反対方向の電車に乗らなくてはならないのだ。
駅をまたぐ高架の通路を通っている時にふと下を見ると、この駅に向かって歩いてくるシンディーの姿を発見した。

三街道「(そうだ!彼女もこの駅を利用していたんだ!)」

彼女は美しく、周囲の風景の中でも目立っていた。行きかう人々の中にも彼女を振り返る者も多かった。体にぴったりフィットした上着。それは彼女のスタイルの良さをいっそう際立たせていたし、あふれるブロンドの髪は人目を引いていた。

三街道「(そういえば……、シンディーはいつもより派手な格好だな。露出度も多いし。今日は明らかにデートに行くような格好をしている!)」

いつもの登校スタイルはジーパンにTシャツと言う飾り気の無いものだったが、今日はわりと女っぽい格好をしていた。

三街道「(まさか……、
二階堂のヤツを探すとか言っていたが……、
今日はもともと二階堂とどこかに行くつもりだったのか?!!!)」

彼女の美しい姿を見て、三街道の心の中にわなわなとシンディーへの想いが湧き上がった。
彼の変わり身の早さは世界一なのだ!w
もう今の彼の眼中には静香の姿はなかった!




三街道はシンディーに声をかけようと思った。
しかし………その前に、ちょっとした事を思いついた。
電話をかけてみるのだ。シンディーに。それで自分に対する彼女の想いが分かる。
静香の時は……それでいい物を見せてもらったから。

ピッピッピッ!

プルルルルルルルルル……。

シンディーの携帯が鳴った!
するとシンディーは素早くハンドバッグの中から携帯を取り出した。

三街道「(おお!あんなに素早く!!!)」

しかし、その着信記録から誰から電話がかかったものか分かると、ガックリしたような感じになった。そしてそのまま、駅の入り口のポスターが貼ってある壁にもたれかかった。
そして携帯から目を離した。携帯はダランと垂らした右手に握り締められたままになった。携帯からはまだ大きな着信音が鳴り響いていた。
辺りを行きかう人々がシンディーの方を見たが、彼女はいっこうに気にしなかった。
彼女は電話に出る気はまったくないようだ。

三街道「(なんだよーーーーー?!!シンディーのヤツーーーーーーーーーーーーー!!!!
俺がかけると電話に出ないのかよーーーーーーー!!!
かわいい顔して、ひどい事するよなーーーーーーー!!)」








『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.9


 三街道は逆上した。
そして設定をヒツウチにしてもう一度シンディーに電話をかけた。

プルルルルルルルルル……。

すると……、シンディーはもう一度携帯の画面を見たが……、

シンディー 「(タイミングよすぎるわね………。これはやっぱり三街道君ね。二階堂君ならヒツウチを使わないし……)」

少しハスキーなため息をついて、携帯を握った手をまた垂らした。今度も着信音が鳴り響いていた。
けれど、シンディーの手はブラブラとむなしく揺れるばかり。この電話の相手に心あらずという所だろうか……。

三街道「(くそおーーーーーーーー!!!なんだよーーーーー?!!
いったいーーーーーーーーー!!!今度もかよーーーーーーー?!!
俺がかけていると可能性があると電話に出ないのかよーーーーーーー!!!)」

そこで、今度は公衆電話からかける事にした。幸い階段を下りてすぐの所に公衆電話があった。
シンディーから見えないように電話機のボードに身を隠しつつ、三街道は残り度数のさらに少なくなったカードをそこに放り込み、電話をかけた。

ピッピッピッ!

プルルルルルルルルル……。
プルルルルルルルルル……。
プルルルルルルルルル……。

ガチャ!

「ただいま電話に出る事が出来ません」

三街道「(なにぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
ドライブモードか?さっきはそうじゃなかったよなーーー?!ヒドい事するなあーーーー!!!!」

怒る三街道。
静香の時と同じ展開である。2度目のダメージを受けて、怒りは前回よりさらに増していた。







三街道「(ふっ!わかったぜシンディー!ここまで俺に挑戦してきたのは君が初めてだ!)」








三街道は意を決した!
カードの入った定期入れを出して、自動改札機に当てた。そして勢いよくシンディーの元に足早に歩いていった。彼女はまだ駅の壁にもたれかかっていた。

三街道「シンディーーーーーーーーーーー!!!」

大きな、周りに聞こえるような声で彼女を呼んだ。
シンディーは三街道の顔を見るなり「(あちゃ~~!)」という感じで、顔を下に向けた。

三街道「偶然だなあーーーーーーー?!!また会うなんて!」

シンディー 「オ-----ーーーノーーーーーーーー!」

三街道「なっ、なんだよそれ?!!!
俺が来ると………………元気ないみたいじゃないか?!」

シンディーは答えなかった。まるで頭痛がするかのように頭を下げて片手で額をさすった。

シンディー 「元気、元気!私はいつも元気よ!ベリーーーグーーーー」

しかしシンディーの語尾のトーンは下がるいっぽうである。
まあ、ここまで美しい顔をしている女性だと、元気の無い姿まで絵になる。何か憂いを感じさせるような。ただ、その視線は決して三街道の方を向かないが。

三街道「元気出せよ、シンディー!!そうだ!これから喫茶店にでも入らないか?何か飲もうよ!気分が変わって元気が出るよ。」

シンディー 「ノーーーー、ノーーーー、ノーサンキューーーー!
かまわないで!私はいつでも元気だわ!かまわないで欲しいの、今は!」

三街道「そっ、そんな…………」

シンディーはキッパリ断った。
が、そう言っても、なおも三街道はシンディーを誘う次の言葉を頭の中で考えている。その仕草は誰が見ても分かるものだった。
三街道が引き下がりそうにないので、しかたなくシンディーは、三街道を無視しようと携帯電話で二階堂に電話をかけ始めた。

ピッピッピッ!

プルルルルルルルルル……。
プルルルルルルルルル……。
プルルルルルルルルル……。

シンディー「?」

プルルルルルルルルル……。

でも先方は出ないようである。

三街道「あーーーーーー、シンディー!
余計な事かも知れないが……、」

シンディー、いったん電話切って、またかけ直す。

ピッピッピッ!

プルルルルルルルルル……。
プルルルルルルルルル……。
プルルルルルルルルル……。

三街道「”二階堂”へだったら、今はかけないほうがいいかもよ……。」

シンディー「What?」

三街道「いやーーーーーーーーーーー!!!
ただ俺は、二階堂のところへかけるんだったら、”今は”止めた方がいいと思っただけだよ」

三街道の言い方が少し変だったので、シンディーはやっと三街道の方をまともに見た。その透き通ったブルーの瞳は三街道をたちまち虜にした。

三街道「あーーーーーーーーーー、
君さえよければ、
いまから少し、喫茶店にでも入って話さないか?
君に、とても”関心の深い話”をわざわざ持ってきてやったんだよーーーー。」

シンディー 「”関心の深い話”…………????
じゃあーーーーーーーー、ここで話して!今ここで!」

三街道「ここじゃ、ちょっとねーーーーーーーーーーーーーー」

シンディー「じゃ、いいわ。また今度!」

シンディーは帰ろうと改札口へ向かう。はっきりした性格のシンディー。

三街道「いいのかなあ~~~~~~~?
二階堂に関する”重要な”話なんだけれどもなーーーーーー」

シンディー振り返る。その長めの柔らかい髪の毛が、体に巻きつくように揺れた。







『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.10

シンディー 「オーケー!分かったわ!いっしょに喫茶店に入ればいいのね?
そうすれば二階堂君に関する”重要な”話が聞けるのね?」

三街道「まあ、そうだね」

三街道は余裕の笑顔を返した。

シンディーはそれを見てがっくりと諦めたような顔になった。

そして、「じゃ、どこにする?あそこ?」と言って、駅前商店街に建つオシャレな喫茶店を指差した。

それは格調高いと言うか何と言うか……、とにかく三街道の普段着ているような安物のTシャツとボロボロのジーパンだけでは、恐れ多くて絶対に入れないような雰囲気のお店だった。
まず、店の入り口付近に立てられたボートの手書きのメニューの文字。それだけでもこの店のシャレたセンスを感じさせた。女性が好むデザインである。

三街道はさすがに「(俺には場違いだなあ………)」と思ったが、口には出さなかった。

よく見ると、ここは喫茶店でもあるが、パスタにも自信があるようだった。いわゆるパスタ専門店である。だが、ランチタイム以外は皆喫茶店として利用していた。






 店内に入った。今日の三街道は、いつもの安物のTシャツとボロボロのジーンズではない。普段よりは良い物を着ていた。なにせ最後の登校日。良い事が起こると期待しての配慮だった。
それでも、この店の入り口をくぐって、白いカッターシャツを着たボーイが出迎えてくれた時、一瞬たじろいだ。そのパリッとした姿は男の三街道から見てもかっこよく見えた。でも、後ろにはシンディーがいるので、そのままおじけずに何とか奥の席まで案内してもらった。

店内は見事なぐらい綺麗だった。白を基調とし、オーバーに言えばヨーロッパ風のデザイン。シャレた花もいけてあった。
三街道はこういう店に入った事がないので、思わす店内をじっくり見回してしまった。非常に明るい店内。
シンディーの方はいつも来ているといった感じで、少々退屈そうに見えた。

ボーイが案内してくれた席に着くなり、シンディーはお腹が空いていたのか、さっさとメニューを開けて見始めた。
シンディーはまったく普段通り。平静。物怖じしていない。まあ外人らしいといえばそうなのだが………。
シンディーは飲み物と軽食のパスタを注文した。三街道もメニューを見たが、英語や見慣れぬカタカナ表示が主で、ほとんど分からなかった。

三街道「俺も同じ物を」

三街道はそう注文した。
シンディーはこれにまたガックリきたようだ。三街道といっしょの物を食べても嬉しくないのか、それとも、こんな注文の仕方を情けないと思ったのか、それは分からないが。

注文が済むと、メニューを持ってボーイは引き下がった。

シンディーはそのかっこいい背の高いボーイの背中を何気なく眺めていた。三街道はそのシンディーの横顔を見た。美しい………。
これぐらいの美人になれば、ただボーとしてるだけでも回りの男性は「彼女は今、何を想っているのだろう?」と思い巡らせてしまう………。




シンディー「で?」

シンディーはテーブルに肩肘を着きながら、半ば面白く無さそうに言った。

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続きます。



『あるモテない男の話』 act.1
『あるモテない男の話』 第2話 「二階堂には”彼女”がいる!」 act.1


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